収益不動産だからこそ必要な家族信託とその効果
2025/02/17
不動産投資による資産形成は、長期的な視点で見れば非常に有効な選択肢です。
特に賃貸物件は、安定的な収入を生み出す重要な資産となりますが、その承継においては様々な課題が存在します。
今回は、賃貸物件の承継における家族信託の活用方法について、実務的な観点から詳しくご説明していきます。
1. 賃貸物件の承継における課題
多くの不動産投資家が直面する賃貸物件の承継問題について、まず詳しく見ていきましょう。
1-1. 所有者の判断能力低下による影響
賃貸物件の経営において、最も深刻な問題の一つが所有者の判断能力の低下です。
例えば、認知症により判断能力が低下した場合、賃貸契約の更新や新規契約の締結が困難になります。
契約の更新締結は所有者の名において行うわけですから、
認知症になると契約の当事者としての能力があるか問われる場合が生じます。
また、判断能力の低下は、単なる契約手続きの問題だけではありません。
賃料の改定や、必要な修繕工事の判断、テナントとのトラブル対応など、
日常的な経営判断全般に支障をきたすことになります。
1-2. 相続発生時の問題
相続が発生した場合、さらに複雑な問題が生じます。
例えば、複数の相続人が存在する場合、物件の共有状態が発生します。
共有者全員の合意が必要な事項が多くなり、迅速な意思決定が困難になるケースが少なくありません。
また、相続人間で賃貸経営に対する考え方が異なる場合、物件の維持管理や収益の分配方法をめぐって
争いが生じる可能性もあります。
1-3. 収益性への影響
これらの問題は、最終的に物件の収益性に大きな影響を及ぼします。適切な管理がなされないことで物件の価値が低下したり、空室率が上昇したりするリスクが高まります。
必要な修繕が適時に行われないことで、長期的な資産価値の維持が困難になる可能性が生じます。
2. 家族信託のメリットと活用方法
このような課題に対して、家族信託は効果的な解決策となります。
以下、具体的なメリットと活用方法について詳しく解説していきます。
2-1. スムーズな賃貸管理の継続
家族信託を活用することで、所有者の判断能力が低下しても、受託者による適切な物件管理が可能になります。
信託契約で【あらかじめ定めた範囲】内で、受託者が賃貸経営に必要な判断を行うことができます。
具体的には、賃貸借契約の締結・更新、賃料の収受と管理、建物の修繕・メンテナンス、テナントとの交渉などを
円滑に進めることが可能です。
特に重要なことは、これらの業務を受託者の判断で迅速に行えることです。
例えば、緊急の修繕が必要な場合でも、所有者の判断能力の有無に関わらず、適切な対応を取ることができます。
2-2. 収益の確保と分配の最適化
賃貸収入の管理と分配についても、信託契約で明確に定めることができます。
信託契約に基づいて、物件からの収益を適切に確保し、必要な経費の支払いや、収益の分配を
計画的に行うことが可能になります。
※所有者が信託契約締結後も賃料を受け取る契約とすることが多いでしょう。
例えば、賃料収入の一部を修繕積立金として確保しつつ、残りを受益者に定期的に分配するといった柔軟な運用が可能です。このようにして、将来の大規模修繕に備えた計画的な資金確保も、信託契約に基づいて実施することができます。
3. 家族信託の具体的な設計方法
効果的な家族信託を設計するためには、以下のような点について、慎重な検討が必要です。
3-1. 受託者の選定に関する詳細な検討
信託の成否を左右する最も重要な要素が、適切な受託者の選定です。
受託者には不動産管理の知識や経験はもちろん、財務管理能力も求められます。
また、委託者との信頼関係の存在も重要です。
「家族」信託というほどですから、通常は血縁関係にある方が受託者になります。
しかし、必ずしも血縁関係にある必要はありません。
もっとも重要なことは「ご自身にとって絶対的な信頼をおける方」です。
であれば、受託者になりうるかもしれません。
さて、受託者の選定にあたっては、以下のような観点から総合的に判断する必要があります。
①不動産管理に関する実務経験や知識を持っているかどうか
賃貸物件の管理には、法律や会計、建物管理など、様々な専門知識が必要とされます。
これらの知識や経験がない場合、適切な管理が困難になる可能性があります。
②財務管理能力の有無
賃貸収入の管理や、経費の支払い、収支報告書の作成など、財務面での実務能力が求められます。
③委託者との信頼関係の存在
信託契約は長期に渡って継続することが想定されるため、
時間が経って委託者がいらっしゃらなくなった後も、
信頼に答えてくれる受託者なのか、慎重な判断が必要です。
≪事例≫家族信託契約を後継者教育に活用
ご自身が元気なうちに、収益不動産を承継する子供を受託者にする家族信託契約をあえて行う方がいらっしゃいます。
家族信託契約を締結した後は、受託者であるお子様が収益不動産の管理をします。
ご自身がご健在ですから不動産の管理についてご自身の経験に基づいた助言や指導がお子様にできます。
このようにして収益不動産のオーナーとしての知識や経験を積ませることが親御様の目的の一つでした。
資産の承継をかねて教育を行うために家族信託契約をご活用された例です。
3-2. 信託契約の詳細設計
信託契約の設計では、様々な状況を想定した詳細な規定が必要となります。
まず、信託財産の範囲を明確に定める必要があります。
対象となる不動産の特定はもちろん、その付属設備や、賃料債権なども含めて、
信託財産の範囲を明確にしておく必要があります。
次に、受託者の権限と義務について、具体的に定める必要があります。
例えば、どのような場合に賃料の改定が可能か、修繕工事の発注にあたってどの程度の裁量があるのかなど、
できるだけ具体的に規定しておくことが望ましいでしょう。
収益の分配方法についても、詳細な規定が必要です。
賃料収入から経費を差し引いた後の純収益を、どのように分配するのか。修繕積立金はどの程度確保するのか。
これらの点についても明確な基準を設けておくことをお勧めしています。
4. 家族信託設定後の受託者の実務運営
信託設定後の実務運営については、以下のような点に特に注意が必要です。
4-1. 日常的な管理業務の実施
賃貸物件の管理業務は多岐にわたります。
まず、賃貸借契約の管理があります。
契約の更新時期の管理や、新規契約の締結、解約手続きなど、様々な契約関係の管理が必要となります。
賃貸戸数が多いと頻繁に不動産管理会社とのやり取りが生じます。
賃料の収受と経費の支払いも重要な業務です。
賃料の請求・収受、必要経費の支払い、収支の管理など、適切な財務管理が受託者に求められます。
滞納が発生した場合の判断と対応も重要な業務となります。
建物の維持管理も欠かせません。
定期的な点検や修繕の実施、清掃業務の管理など、物件の価値を維持するための様々な業務があります。
特に、長期的な修繕計画の策定と実行は、物件の価値を維持するために重要です。
4-2. 適切な記録の保管と報告
信託財産の管理状況を適切に記録し、保管することも極めて重要です。
具体的には、以下のような記録が必要となります。
・収支に関する記録
賃料収入や経費支出の詳細な記録を含みます。
これらの記録は、定期的に受益者への報告を行う際の基礎資料となります。
また、税務申告の際にも必要となる重要な資料です。
・物件の管理状況に関する記録
修繕・メンテナンス履歴、テナントとのやり取りの記録、各種点検の結果など、
物件管理に関する様々な記録を適切に保管する必要があります。
5. 将来を見据えた対策のポイント
収益不動産の管理において家族信託を活用するためには、
長期的な視点で将来起こりうる様々な状況を想定した準備が必要です。
5-1. 段階的な権限移転の検討
委託者の判断能力の低下は、突然起こるわけではありません。
そのため、段階的な権限移転を計画することが重要です。
例えば、初期段階では委託者自身が主体的に判断を行って受託者に指示し、
徐々に受託者の権限を拡大していくといった方法が考えられます。
また、次世代への経営移行も重要な検討事項です。
特に、複数の相続人が存在する場合、将来の紛争を防ぐため、
早い段階から計画的な準備を進めることが望ましいでしょう。
5-2. 不測の事態への備え
受託者の死亡や判断能力の低下など、様々な不測の事態に備えた規定も必要です。
特に、受託者の交代に関する規定は重要です。
どのような場合に受託者を交代させるのか、誰が新たな受託者となるのかなど、具体的な規定を設けておく必要があります。
通常は予備の受託者を信託契約公正証書に記載します。
予備受託者の記載がない場合、金融機関が信託口口座を解説してくれません。
したがって予備受託者の設定は必須とお考え下さい。
細かい点はご相談頂いた際にご説明致します。
また、信託財産の評価方法についても、あらかじめ明確な基準を設けておくことが望ましいです。
信託終了の条件とともに終了時における財産の分配方法について、明確に規定することが大変重要です。
おわりに
家族信託は、不動産投資家にとって非常に有効な承継対策ツールとなります。
ただし、家族信託の設計や運用には専門的な知識と経験が必要です。
特に、信託契約の設計段階では、将来起こりうる様々な状況を想定し、適切な規定を設けることが大切です。
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(文責 島田)